逆境の中に居ればみな薬石

逆境の中に居れば、身の周りみな鍼砭薬石(しんぺんやくせき)なり、節を砥(と)ぎ行いを礪(みが)きて、而(しかも)も覚らず。順境の内に処れば、前尽(ことごと)く兵刃戈矛(へいじんかぼう)で満る、膏(あぶら)を銷(とか)し骨を靡(び)して、而も知らず。
逆境の中では、すべてが鍼砭薬石となり、気が付かない内に自身を磨く事となる。
順境の中では、すべてが兵刃戈矛となり、知らず知らずに身を溶かし骨を散らす事となる。

洪自誠/菜根譚

 
鍼砭薬石・・・鍼砭は灸に使用する針。薬石は空腹を紛らわすために腹にあてる温めた石。
兵刃戈矛・・・武器を振り回して戦う事またその武器。転じて危険なもの。
骨を靡して・・・骨を削る。靡は無駄使いする事。