泥棒に間違われた海舟

これは岩波文庫『新訂海舟座談』の付録に記載される使用人・森田米子女史の回顧録です。
 
新橋辺りの骨董店に参りました時、外套(がいとう)を着たままで、ちょいちょいと手を出して、取って御覧になるので、家(店)の細君やら亭主やらが出て来て、見張りまして、真に可笑しゅう御座いました。
 
少しはなれて見ていたお付きの米子は、店の者の誤解を解こうと、海舟に近づき外套の袖をまくり上げます。
これを怪訝に思った勝は
「何をするのだ」と𠮟りつけます。
「お袖が邪魔になるだろうと思いまして・・・」
 
それから自邸に戻って
「あの店の者は、俺の顔ばかり見ていたが、俺の事を知っておったのだろうか?」
勝は首をかしげますが、これに米子は
「ちょっと変に思っていましたのでしょう」
「なに、俺を泥棒と思ってやがったか!!」
と悟って大笑いしたという事です。