夢想権之助の挑戦


武蔵、江府に在し時
夢想権之助と云し者来し勝負を望む
権之助は木刀を携う
武蔵、折節、楊弓の細え有しか、直に割木を以て立向う
権之助、会訳もなく打ち驅る
武蔵、一打に撃たはす
依りて閉口して去

豊田景英/二天記

 
宮本武蔵は若かりし頃、中国地方を転々としていたようですが、そんな中、伯耆国の江府(こうふ)に在した時の話です。
突然、武蔵のもとに夢想権之助という者が木刀を携えて訪れ、勝負を求めます。
武蔵は近くに置かれていた割木を手に取り、勝負を受けます。
権之助は会釈もすることなく打ちかかりますが、武蔵に一振りで打倒され、閉口して去って行きました。
 
権之助は天才剣豪に甚くプライドを傷つけられその場を去りましたが、その後この敗北を自ら認め、次のステップに行けたのかが気になるところです。敗北を認められず、そこから抜け出せなくなるのが長い人生での一番大きな敗北となる可能性がありますので・・・。ただ権之助は天才剣豪に挑むほどのツワモノなので、こんな心配はご無用なのかもしれません。

 


江府(こうふ)・・・現在の鳥取県日野郡江府町。当時は山中の城・江美城(えびじょう)の城下町。
楊弓(ようきゅう)・・・遊戯用の小さな弓。武蔵は楊弓の材料となる割木を木刀の代用にしたようです。
割木・・・丸太をいくつかに割って細くしたもの。マキ。
会訳・・・会釈の事だと思われます。