勝海舟は横井小楠と西郷隆盛を恐ろしい人物として挙げていますが、別の意味で恐れたもう一人の男として河上彦斎を挙げています。
河上彦斎は幕末の人斬りで知られる人物で、幕末から維新にかけて結構な人を斬った様です。
維新後の事だと思われますが、意外なことに海舟は彦斎と接点があったようで海舟は次の通り話しかけています。
「あなたのように、多く殺しては、実に可哀想ではありませんか」
「ハハァ、あなたは御存じですか」と彦斎は動揺もせず答えます。
「それは分っています」
「ソレハあなたいけません。言い聞かせても無駄なことです。野菜を収穫するのと同じ様なものですから」といった事を顔色も変えず語ります。
「あなたは、そう無造作に、人を殺すのだから、あるいは己(おれ)なども、ネラワレルことがあろうから、そう言って置きますが、だまって殺されては困るから、ソンナ時は、そう言うてください。尋常に勝負しましょう」と海舟が言うと
「ハハー、御じょうだんばかり」と彦斎は笑ったという事です。
「海舟座談」(岩波文庫)の著者・巌本善治氏は、この記事の冒頭で「コワクテコワクテならなかったよ」と海舟の回顧を書き残しています。