善悪につき他を妬まず

善悪につき他を妬(ねた)まず

宮本武蔵/独行道

 
武蔵の言葉は人の心に響く理解し易いものも多いのですが、難解なものも結構、登場します。特に『独行道』は壁書文なので一つの文章が短く表記され、どう解釈すればよいのか悩んでしまいます。
この言葉の解釈も非常に難しいようです。後半の「他を妬まず」と言うのはすぐに分かるのですが、「善悪につき」の意味が理解しかねます。
「その人の為した善と悪では評価しても、その他の事ではその人を妬むような事はしない」と訳すか「偏った考えで善悪を判断して、他人を妬むような事はしない」と訳すか、はたまた「人の善悪を判断するのに、個人的な妬みの心を用いない」と訳すのか、ただ単に「善悪だけで人を妬むような事はしない」と解釈するのか難しいところです。
佐藤一斎の『言志録』には「愛悪の念頭、最も藻鑑を累わす」(好き嫌いが念頭にあれば、その人の人間性を判断するのに心を煩わす)という言葉がありますが、もしかしたらこちらと同じ意味で「善悪」を「好嫌」と解釈すべきなのかもしれません。