勝先生、容易に胸襟を開かず

先生に従って教を請わんと欲せば、真に先生によりて学ぶの決心なかるべからず。しからずんば、先生は容易にその胸襟(きょうきん)を開かず。ただ放言(ほうげん・無責任に言い散らす事)大語(たいご・大げさなに言う事)してその人を驚かすがごときのみ。・・・(中略)・・・ けだしその人にあらずんば語らざるなり。いわゆるその人にあらずして語るは、言を捐(すつ)るなりという者これなり。されば、先生もまたかくのごとく、その人を認むるにあらずんば胸中を語られざりき。
 
『新訂海舟座談』(岩波文庫)付録その二 「勝先生を懐う」松村介石 より